Chaucolat Chaud in Kita-Aoyama (2019)

年末の金曜日、僕は表参道駅A2出口を上り、既に夕闇に覆われつつある通りへと出ると、Apple StoreにならぶiPhone 11シリーズのディスプレイにすら目もくれずに、角を曲がり路地へと入った。おしゃれなコートを羽織ったOLたちとすれ違うたびに、どうしようもないほどの場違いな気分を自分に対して感じながら奥へと進むと、店舗がほとんどなくなりかけたあたりに、ショコラ専門店「Un Jour Chocolat」がある。通りに面した壁の部分には大きなウインドウがあって、電球色の室内照明のおかげで、摂氏4度の外気とは似つかわしくない温かみを感じる空間が夕闇の中にぽっかりと浮かんでいる。

ミルクのホットチョコレートを作ってくれているマスターの後ろ姿を眺めながら、僕はマスターが使っているホットチョコレートマシンを企画開発した人のことを、ほんの数分だけ考えていた。大企業の中にいて、たくさんの抵抗に会いながらも、それでも自分が創りたいものを真摯にずっと追いかけ、共感を積み上げて、身を持ってリスクをとりながら実現させている彼女と、背負うものの重さすら知らずうわべだけの起業家精神を語る連中に囲まれて辟易している僕、もとよりそれぞれが目指すキャリアの姿は全く異なるものだし、僕がPanasonicを辞めて、もう二度と戻ることはないとわかっている今、ふたりのビジネスが交わることはもうあり得ないとは思うけれど、少なくとも、暖かくて甘いホットチョコレートに僕がとても励まされたことだけは確かな事実だとその時思った。

きっとこれを飲み終わる頃には、外はもう夕方から夜の風景へと変わり、ほんの少しの冬休みをはさんで、いつも通りのビジネスが始まる。

【ミツバチプロダクツ】圧倒的な情熱で創る新しい食文化
https://incubationinside.jp/2019/05/31/mitsubachiproducts/

ショコラ専門店「Un Jour Chocolat」
https://localplace.jp/t200489746/drink.html